無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

近接界というもう一つの世界1

すごく近寄った時に見える世界 - 2012.07.19~21


キルフィット マクロキラー40mm f3.5E
Kilfitt Macro-Kilar 40mm f3.5E

 ライカのようなレンジファインダーカメラにとって、接写と望遠は使いにくいものです。ビゾフレックスというパーツを足して一眼レフのように使うか、それだとかなり大掛かりなので、接写の場合は各種メガネを付けてファインダーの倍率を変えるなどして対応することもあります。一眼レフを使うのが普通です。

 もしDRズミクロンをR-D1に付けていたら接写はファインダーが対応しませんが、レンズの方は接写可能です。ということは、目測で撮影しようと思えばできるということです。デジタルなので数度撮り直せば撮影できます。器材を余り持ち歩きたくないこともあるし、あまり接写を使う機会がないのであれば、この方法で僅かの撮影を済ませてしまうことに、ほとんど問題を感じないこともあるぐらいです。(注:ライカM8,M9,エプソンR-D1はいずれもDRズミクロンに対応していません。実際には使って問題ありませんが、メーカーが推奨していないので扱いには注意を払って下さい。)

 レンジファインダーカメラは最短でも70cmまでしか測距できません。しかし一眼レフ用レンズのマウントを改造して使う場合はレンズ自体がもっと近くに寄れるものもあります。そういう場合でも目測撮影はできます。本稿ではこの方法で、幾つかのマクロレンズを撮影していきたいと思います。

 まず最初に世界で最初に作られたマクロレンズと言われるミュンヘン・キルフィット Kilfitt社製マクロ・キラー Macro-Kilarから40mm f3.5Eを使ってみたいと思います。

 マクロ・キラー40mmにはマウントが数種あり、M42、アルパ、エキザクタ、アリフレックス、Cマウントなどがあります。一部はネジを外してマウントが交換できるようになっています。タイプは以下の3種です。

A - 映画用。他の2タイプよりかなり小型です。3色補正アポクロマート Apochromat仕様であることを示すため、3色のドットがレンズ全面に入っています。
D - スチール用。倍率1:1。最短撮影距離0.17m。ダブルヘリコイドで高倍率を得ています。
E - スチール用。倍率1:2。最短撮影距離は数種あるようで、一番短いもので0.1mからさらに回る。(それでもせいぜい0.09m)シングルヘリコイド。

 マクロ・キラーには他に90mmもありますが、こちらはビゾ用に改造できますのでしっかりファインダーを見て撮影が可能です。描写の傾向が異なり、40mmは柔和で90mmは峻烈です。どちらの魅力にも抗し難いものがあります。

 さて、今から作例をご覧いただきますマクロキラー40mm f3.5Eですが、中国でマウントを付けてもらいM39距離計連動無の工作をしてもらっています。フランジバックを合わせるために筒を足す比較的簡単な工作でしたが、そこは中国ですからやはり問題がありました。このレンズはマクロなので、0.1m,0.11m...と目盛りが打ってあります。それで0.3mの時にレンズの全面から対象までが0.3mになるように作ってしまったようです。そうすると5mあたりに合わせると無限が出ます。0.3mに合わせると0.4m付近が撮れてしまいます。最短撮影距離は本来0.1mですが、ここは少し長くなりますがあまり変わりません。中国で工作すると半分ぐらい駄目です。安いですが。機械工作だけできる状態で始めている人たちですが、彼らがやり始めてくれないとこちらもどうしようもないので、工作可能というだけで良かったと思わないといけません。(その後、だんだんと自分で工作するようになっていきました。)とりあえず差し当たっては影響ないので撮影を開始します。まずは古いレンズを撮影してみたいと思います。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E ダルローのレンズ 刻印
 これは最短ギリギリで撮ったものです。0.1mぐらいです。開放F3.5での撮影なので被写界深度がすごく狭くなっています。中央部分がぼけていますが、両端の文字は鮮明です。これぐらい撮れれば、マクロレンズとして実用十分です。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E ダルローのレンズ 全体
 次は0.4m相当(目盛りは0.3m)で撮影後トリミングしています。十分、物体の撮影には使えることが確認できました。しかしそれだけでは不十分です。ボケ味も確認してみましょう。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E レンズを撮影した環境
 何度か撮り直す過程でピンが少し奥に行き過ぎた画です。アイロン台の先の方にピントが合っています。ボケは率直で美しく、対象が浮かび上がるように撮れています。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E 室内工事の公告
 それでは、外に出てマンションの階段一面にスタンプしてある室内工事の公告を撮影します。マンションの共用部分にこういう印を押すというのは日本では考えられませんが、どこにいっても壁一面に、そして階段の立ち上がりにも押してあります。撮影距離は0.4mぐらいですが、合焦部とボケの境が非常にはっきりしていることがわかります。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E 野ばら
 家の前に咲いている薔薇で、もう少し遠いボケも確認してみます。合焦部に近いボケは奇麗ですが、距離が離れると汚くなります。ここは1つ留意するべき点かもしれません。薔薇のディテールの浮かび上がり方は見事です。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E 野ばら近接
 壁のような平面ではボケの境界が明確に出ますのであまり良くありませんが、このような複雑な構成物の場合は持ち味が活かされます。絞りを開けるともっと深度が稼げますから、そのあたりで作画意図に沿ったものに仕上げることができます。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E バンパーの上の花びら
 あまり良くないということだった平面の図をもう1つ撮りましたが、カメラを接地せず幾らか浮かしましたのでボケがなだらかになりました。この匙加減も1つのポイントになりそうです。細かい花びらが明瞭に浮いていますけれど、この特質はマクロレンズにとってとても重要かもしれません。

 今度は夜間も撮ってみたいと思います。南锣鼓巷界隈です。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E 文革期のポスター
 文革期のポスターは独特の芸術様式があります。動きが感じられるものもあることはありますが、いずれにしても古い漫画的な雰囲気です。これが現在、懐古趣味的な人気があります。このように顔の前方をぼかすとおもしろい感じがします。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E コーヒー店
 コーヒー店の表示です。柔らかな印象です。こういう中庸を得たものが結局何にでも使いやすいような気がします。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E ちょうちん
 提灯は内部に強い光源を持っています。間に1枚入っているとはいえ、これだけ近いと写真にとって扱いやすい対象ではありません。正面に持っていかず、角度を外したらうまくいきました。墨の具合とボケが相まって良い感じです。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E 金属の漢字
 木板の上に金属の枠と漢字をあしらったプレートです。ピントは右上方面にずれてしまっていますが、本来は「唐」に合わすのがいいかもしれません。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E 電光掲示板
 これは0.7mだったので一般にはマクロ撮影と言わないかもしれません。距離計が使えるなら測距できる範囲です。

キルフィット Kilfitt マクロキラー Macro-Kilar 40mm f3.5E スイーツ店
 白と黒の対比です。明確なコントラストを全面に打ち出したメニュー表ですが、その通りにコントラストのメリハリをはっきり感じさせつつ、柔らかみも失っていません。

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