無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

中世の街並みが今も残る
東欧の古都が生み出したレンズ1

南スラブのレンズの描写を確認する - 2013.03.22


ゲタルドゥス ゲナー 45mm f3.5
Ghetaldus Ghenar 45mm f3.5

 かつて冷戦時代にユーゴスラビアという国がありました。イタリアの東にある共産国で連邦国家でしたが、90年代始めに分離して幾つかの国に別れています。そのうちの1つのクロアチアという国にザグレブという大きな都市があります。ここに戦後、ゲタルドゥス Ghetaldusという光学会社が設立され、今でも眼鏡の会社として存続しています。さらに北端にスロベニアという国もあり、当地のリュブリャナという街にもベガ Vegaという光学会社がありましたので、ユーゴ国内での工業生産は北方に集中していたのかもしれません。ベガはプロジェクター用レンズのみの生産に留まっていた模様ですし、ゲタルドゥスの撮影用レンズもおそらくゲナー Ghenar 45mm f3.5しかないと思われますので、現在撮影可能な資産が少ないのは間違いありません。ゲナーはドイツ製のカメラにOEMで供給されていたレンズで固定式なので壊すような形で分解取り外し、マウントをライカに変える改造を行いました。距離は前群のみを動かすタイプで、レンズ構成はトリプレットです。距離計には連動しませんがレンズ自体が元々目測仕様ですから問題なく撮影できました。とにかく、写りが全く予想できないということもあるし、珍しいスラブ系の民族のレンズということで、大いに期待しつつ撮影に及びたいと思います。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 藍島ビル
 最近完成しました地下鉄6号線を利用して朝陽門外にあります東大橋駅で下車します。A口から地上に上がると藍島大厦が見えます。このビルは5年以上前にはすでにあったので、北京の大きな近代ビル群の中では比較的古いものです。表面は巨大な広告で覆われているので、このビルがどれだけの年式のものであるか感じさせる要素に乏しく、ビルの存在感を感じさせるものもこの表示のみです。中には入ったことがありませんが、おそらくショッピングセンターでしょう。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 芳草地
 藍島大厦を南に下ると芳草地という住所の場所があって、そこにもショッピングセンターが建っています。このビルは住所にちなんで「芳草地」と名付けられています。こちらはまだ建ったばかりです。

 遠景で2枚を続けて見ましたが、やはりトリプレットということで描写の精度は望むべくもありません。これも世界のその他のトリプレットと同様、ミニチュアっぽく写ります。しかしこれを見た感じ、ガラスの供給とか技術支援を南ドイツの方から受けたのではないかという気がします。そう思うぐらい方向性に近いものがあります。戦後ソ連はドイツの様々なものを接収しましたが、学習というよりも収奪であったので、やがてすぐにドイツ色は薄れてゆきロシア固有の個性を持つものになってゆきました。しかし同じ共産国ではあってもユーゴは、これを見た感じではありますが、ソ連的思考とは一線を画し、ドイツからしっかり学んで学習していたようです。ゲタルドゥスは眼鏡メーカーです。ローデンシュトックも眼鏡メーカーです。これは偶然ではないような気がします。ミュンヘンは経済発展した都市でしたから、安い労働力を求める意味でザグレブとの提携はメリットがあり、一方も技術提供を受けられたのではないかと思われます。両社は現在撮影レンズの製造から手を引いて眼鏡の方がメインになっているようですが、どちらも安価な東洋勢に飲み込まれることなく支持を受けています。ゲタルドゥスが今でも眼鏡生産で生き残っているのはしっかりした技術の裏付けがあるからだろうと思います。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 IWC
 トリプレット特有の艶やかさがあって良い感じです。このレンズに対しては、有る意味、発展途上国的なものを求めていましたので、そういう意味では残念です。立派過ぎます。これであれば、ローデンシュトックを使っても似たようなものだったろうと想像されます。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 円形のモニュメント
 近い物を撮ると主題が浮き立つし、ポートレートに使えば申し分なさそうです。信頼性の高いレンズです。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 包子作り
 包子の店で作業の待機をしている職人たちです。まだ5時頃なのでこれから忙しくなるのだと思います。色彩感を見た感じ、シュナイダーの影響も感じられますので、やはりドイツの影響は強いと感じられます。南スラブ特有の表現を見たかったところです。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 紫のドーム
ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 赤い提灯
 しかしよくよく考えると、ドイツ人が組み立てていたら、もっと切れ味があるような気がします。基本的なスペックはドイツ譲りですが、地中海的穏やかさはこのレンズの中に認められるかもしれません。どちらが良いかというと難しいところです。光源を撮った時に精度の微妙な差が現れやすいように思います。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 度小月
 ピントは「度」の文字に合っています。「小月」はボケていますがナチュラルです。幻想的なトリプレットの良さが出ています。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 さぼてん
 新宿に本店があるトンカツ店「さぼてん」にお邪魔します。「日式炸猪排」とあります。日本のとんかつという意味です。下の「騰博殿」はさぼてんの当て字で、発音が近いものを選んで並べています。近いとはいえだいぶん違いますので、中国人には中国の発音で言わないと通じません。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 胡麻
 この店では自分で胡麻を磨る必要があります。ですから女性と行くと、その人数分、磨らないといけないので結構たいへんです。こういう環境でトリプレットを使うと周辺の減光が顕著ですが、このレンズも例外ではありません。対象のミニチュア感がよりデフォルメされる点も同様です。

ゲタルドゥス Ghetaldus ゲナー Ghenar 45mm f3.5 SOHO
 外へ出るとかなり陽が落ちていました。先ほどまで滞在していた芳草地ビルは右端の建物です。光の柔らかさが祭りのような雰囲気でいいものです。

 全体的に見てみると本レンズは、ドイツの優れた光学技術の蓄積を借りて確かなものを作ってはいるものの、南国の緩やかさがいい具合に溶け込んだ佳作に仕上がっていると思います。このレンズでプロヴァンスや北アフリカのリゾートなどを撮影するとぴったりはまりそうです。こういう環境をもしドイツ製で撮影すると少し硬過ぎるかもしれませんし、イタリア製よりもこのザグレブ製レンズの方が合うように思います。パステル調だけれど、少しクールな、そして開放的な雰囲気が本レンズの特徴だと思います。夢があります。旅向きかもしれません。

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