無一居

写真レンズの復刻「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

フランスの品格が導き出した3つの表現12

フランスレンズの濃厚な美について - 2012.10.26


ソン・ベルチオ シノール 35mm f3.5
SOM Berthiot Cinor 35mm f3.5

 次にベルチオ Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5という珍しい玉をご覧いただきます。絞りの前後に反射が4つあります。スピーディック Speedic型と思われます。(確立されたリストを持つアストロ・ベルリンガラスの黄金比とは則ち "4" なのだろうか参照)これは楽しみです。他の特徴も確認しておきます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 現物外観全体
 レンズ先端の外径が20mmという非常に小さいレンズです。マウントはDです。レンズ本体とセットだったと思われる濃いアンバーのフィルターが付いています。「DUHE B.23」と赤で書かれています。絞りの目盛りは5.6、距離の目盛りは5mが赤色になっていて他は黒です。何らかの目的で基準となるポイントだと思われます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 前玉
 ガラスはかなり奥の方にあります。これは非常に珍しいと思います。本来の用途ではフードを使わないこと、そしてフィルターは必ず使うことを示唆しているような作りです。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 後玉
 後ろから見てもガラスはかなり奥にあります。非常に不思議なレンズです。ベルチオはガラスを奥へ奥へ入れる傾向があるのですが、それにしてもやり過ぎのような感じがします。防犯用ではないと思います。防水しているように見えないからです。産業用の可能性は高いと思います。医療とかそういう関係のような気がします。イメージサークルも非常に狭いので後ろのみハウジングを削って広げた状態でマウントを付けて撮影してみたいと思います。撮影地は北京城東南角楼です。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 北京城東南角楼(オリジナル)
 いい感じで淡い白膜が出ています。動画であればこのままの方が良さそうですが、写真なら少し調整を加えておきたいところです。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 北京城東南角楼(強めの調整)
 そこで毎度の同じ方法でブラックポイントを上げますが、今回は露出スライダーも上げていきます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 北京城東南角楼(強めの調整結果)
 そうするとこんな風にがっちりした画像になります。暗さも取れていますし、色彩はしっかり出ていますが、遠景はほとんど変わっていません。遠景のフレアは奇麗なので活かしたいところですが少し硬くなっていますし、手前の石畳の淡い階調表現も損なわれてしまいました。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 北京城東南角楼(調整の匙加減を変える)
 それで手加減します。値は分かりやすい数字を入力していますが、実際にはスライダーを動かしながら写真を見て調整しますので小数点以下まで細かい数字になってきます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 北京城東南角楼(最終決定)
 とりあえずこれでOKとします。この画はこれでいいと思いますが、対象によっては大きくスライダーを動かした方が良い場合、全く何もしない方が良い場合もあります。表現意図によっても変わってきます。以下の例では独断で調整したものを並べていきます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 胡同
 まず付近の住宅街から見ますとこの辺りにも狭いですが古い胡同があります。フランスレンズは明と暗の差が激しいので、この画でも上は明るさで飛んでいて下半分はしっかりしています。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 階段
 北京城東南角楼は東便門付近にあります。この門を含め、北京城の大部分は毛沢東の大躍進政策の時に解体されました。残っているのはこの東便門付近と西便門あたり、そして故宮外周です。跡地は現在2号環状線で地下鉄もあります。東便門あたりはジャンクションになっていますので、道路が上下に交錯し付近は起伏が激しくなっています。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 眺める人
 北京駅から歩いてきたご夫婦です。目的地を探して遠くを見ています。こうして毎日多くの人が生活のために大都市を目指してやってきます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 石の標識
 残された城壁は現在では石碑も建てられ大事にされています。周辺は公園になっています。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 城東南角楼
 角楼を見上げます。これはブラックポイントを最大まで上げてみました。北京駅から出発すると電車の中から右側にこの楼閣が必ず見えます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 角楼から眺める北京駅
 北京駅の構舎が見えます。残された城壁は北京駅の南にあります。レンズはシリアルを見るとそんなに古いものではないのですが、写りは古めかしいです。ライカマウントに合わせるために、暗角対策とフランジバックの調整でハウジングの後面をカットして排除しています。もしこれをやらなければ、色彩はもっと濃かった筈です。光の通り道が狭いと光線が集約され露出が上がって色も濃厚になるからです。もっともブラックポイントを上げた効果が元の状態を復元している筈です。ともかくこのレンズは繊細なトーンを味わいたいものです。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 近所の老人
 城壁沿いは細長い公園になっています。北京は大きな公園の多い都市です。年配者からの要望としては東屋建設の要求が多いようですが、この公園にはありません。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 紳士の散歩
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 双子の少女
 このレンズにも映画用向けの収差が有る程度はあるのでしょうか。人物はどこかから切ってきて貼り付けたような浮かび上がり方をしています。色彩を濃厚に調整するとフランスレンズ独特の立体感が高まります。本来、イメージサークルの小さいレンズですから濃厚に振って真ん中だけ使うと意外とまともなレンズになり一見すると爆濃型と大差はなくなります。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 バギーに乗る子供
 変な人がいると思って化け物でも見るように身を乗り出して凝視していますので歩きながら撮ってやりました。大人より賢そうですが、もう少し賢くなると人様をそういう風に見てはいけないと理解するようになると思います。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 角楼に至る階段
 これはわざと露出を異常に高めて明るく飛ばしてみました。ドイツや英国のレンズにはない独特のトーンです。敢て言えば、ベルチオ・トーンです。美人はガムを踏んだようです。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 白人の少女ら
 フランスレンズなのでフランス人、否、フランス人かどうかはわかりませんが、アジア人よりは合うような気は何となくあります。白い肌の人物を撮るならポートレートで結構良いのかもしれません。この画は無修正です。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 絵画
 角楼は美術館として再利用されています。この画は濃度を最大に高めてあります。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 絵画の鑑賞
 ルーブルとかプラドに行ったら、画に近づいては離れを繰り返している人がいますが、中国では初めて見ました。白人でしたが。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 美術館内の椅子
 空間のマネジメントも見ごたえがあります。広くはありませんが、古い建物ということで展示する環境も申し分なく、人も少ないので落ち着いています。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 石畳
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 櫓
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 門
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 喫茶店
 屋外に出て、持ち前のトーンを壊さないように僅かな調整を加えたり全く加えなかったりしてみました。これだけ階調が豊かなレンズというとライツぐらいしか思い当たりませんが、ここまでのものは他にはなかなかないと思います。ただそれは、階調だけに注目した場合であって、白けたアブノーマルなレンズである事実は否定できません。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f3.5 花茶
 最後に割と近い対象物ですが、喫茶店の広告を撮ってみました。遠景を撮ってトーンを楽しむのもいいですが、こういう近いものの立体感も良いと思います。濃い色彩、浮かび上がり方とフランスレンズの醍醐味は一通り備えているようです。物体の肌合いはベルチオ独自のものです。

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