無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

フランスの品格が導き出した3つの表現1

フランスレンズの濃厚な美について - 2012.05.23


ソン・ベルチオ シノール 35mm f2
SOM Berthiot Cinor 35mm f2

 芸術の都パリから生み出されたフランスレンズは、フランス的な感性による美しさが色濃く反映されています。その最たるものとしてまずは映画用レンズを挙げないわけにはいきません。もちろん古くは黄銅の筒にガラスを填めたものの中にもフランス独自の感性を宿したものもあります。どの製品もパリ人の感性に則ったものが作られたという点で独自のものがあります。映画というのは「登場人物」というのが重要であって、まずは人を撮るためのレンズです。人物用レンズとしてはオーストリアのペッツバール Petzvalによる光学計算から始まり、英国のクック Cooke、ドイツのメイヤー Meyer、アストロ・ベルリン Astro Berlinによって映画、テレビ用のレンズへの収差の適用が練り上げられ、パリ勢が設計の面で後発となったものの徐々に優勢になっていきました。その初期の足跡についてはソン・ベルチオ SOM Berthiot社が製造したレンズに求めることができます。その後、アンジェニュー Angenieux、キノプティック Kinoptikといった偉大なメーカーが出現しましたが、これらのメーカーが有している感性の源流はベルチオに見い出すことができます。これから、ベルチオの設計師 ラコール Lacour、フロリアン Florianなどベルチオ初期の先人たちの"作品"についても鑑賞していきます。これらは戦前のノンコートのベルチオになります。

 鑑賞の前にまず、パリ製レンズの"三態"についてまとめておきます。しかしこのことについて考える必要があるということは、とても不思議なことです。なぜなら、ある特定の文化圏に属している人々の感性というのは1つの要素に集約されていくからです。設計師についても各個人に好みや癖がありますが、いろんなものを作ったとしても骨格を成すものはたいてい1つです。優秀な芸術家ほど骨格が明確です。同様にパリ人のレンズも結局は1つに纏められると見なすこともできます。しかしそこから3つの変態を見いだすことが可能なのはとても興味深いことです。それをあらかじめ分類しておきます。

1,淡調型 あらゆる対象を薄味に繊細に捉えます。
2、爆濃型 強烈な色彩感です。
3、霧膜型 白い霧のような膜が出ます。

 一般に動画の撮影のためにプロから好まれるのは淡調型のようです。爆濃型は明るいレンズに多く、市場ではプレミア価格で取引されている人気の玉です。霧膜型はおそらくその源流はアストロですがフランスレンズに取り入れられ、よりムーディーな色気を漂わせるようになった品格の高い玉です。とはいえ、この三態は相互に関連していますので、2つの要素を同時に持っているレンズもあります。

 それでは初めに爆濃型のものとして、ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2を見ていきたいと思います。f2ですがテッサー型です。このレンズは特に、色彩が非常に濃厚です。どういうものなのか、宮廷音楽が保存されているという智化寺に行って撮影してきます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 北京古楽保存会
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 北京古楽保存会の楽譜
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 灯籠の足と地面の蓋
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 打楽器
 驚異的な色彩感です。単に艶やかなだけでなく、ゴージャスな品まで漂っています。周辺光量が落ちなければもっと良いのですが、この効果が対象を引立てている側面もある上、この弱点ゆえに非常に安価な玉なので難しいところです。それにしても何度撮影してもその度にこういうものをよく作ったと感心させられます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 鼎の置物
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 アーチの門
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 灯籠
 今度は対象の浮かび上がり方をご覧いただきます。映画用のレンズなので撮影している人物が美しく浮かび上がらなければなりません。そのための収差計算がなされていることがわかります。3枚の写真のうち、真ん中のものは左のアーチあたりにピントが来ていますが、浮き出し方がまさにフランス的です。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 扉のある隅の空間
 何も際立った対象がない画の場合は全体的に柔らかく写るのみです。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 钟楼
 少し遠くを撮ってみます。変なボケ方になってしまいました。中央がボケてその周囲がはっきりしており、さらに周辺にいってボケています。これは前ボケの特徴でもし建物にきちんとピントを合わせていれば、きちんと写ります。映画のフォーカスインアウトでの用途を考えてこういう効果を足している可能性もありますが、そもそも映画用フィルムのフォーマットはもっと小さいのでこの問題は出なかった可能性は高いと思います。しかも本レンズは全面と後面のハウジングを削って視界を広げています。屋外での色彩はいくぶん控えめになる傾向があります。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 都合の良い角
 今度は家の近所をうろうろして夜の描写も確認してみますが、特徴はほとんど変わりません。この画では、壁に書いてある内容にうろたえたのか、ピントを外している模様ですが、物体の捉え方は昼間と同じです。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 肉屋
 このレンズにかかると何でもレプリカのような写り方になってしまいます。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 餃子屋の主人
ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 餃子屋のおばちゃん
 今晩お世話になった餃子の屋台です。20個ぐらいで10元です。量が多く、食べきるのがたいへんです。

ソン・ベルチオ SOM Berthiot シノール Cinor 35mm f2 老北京料理
 遠くを撮るとまともに写りすぎてしまいます。光が一定以上の強さを持つと画像がはっきりするのだろうと思います。

 このレンズの作例は古いレンズの貴重な資料の頁にも掲載しています。

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