無一居

空想のレンズを作ってしまう「むいちきょ」
紀元2012年1月創業

「帝国光学研究所」について5

国産の別のレンズも試す - 2014.01.18


コシナ フォクトレンダー ヘリア 50mm f3.5
Cosina Voigtlander Heliar 50mm f3.5

 コシナという主にレンズのOEM製造を請け負う会社が日本にあります。現代ツァイスのレンズを作っていることなどで知られています。すでに倒産したフォクトレンダーブランドの使用権も獲得し、それにちなんだレンズも製造しています。ヘリア型はフォクトレンダーによって開発されたレンズ構成で主流になり得ず、やがて消えていきましたが、21世紀になって復刻されたのは良かったと思います。「良かった」というのは変な表現ですが、とにかく古いレンズですので、現代でも違和感なく使える状態に整えられて提供されたのは良かったと思うのです。おそらく本レンズは東京光学(トプコン)のトプコール Topcor 50mm f2.8 ライカマウントの復刻だろうと思います。口径が違いますが、何分古いレンズですので明るさを抑えて性能を高めたのかもしれません。このトプコール 50mm f2.8がヘリア型を採用しているのは非常に珍しく、このレンズも極めてレアになってしまっていますので、やはりヘリア 50mm f3.5を以て復刻されたのは良かったと思います。コシナは以前にトプコール 58mm f1.4の復刻を手がけたことがありますのでトプコールの復刻は慣れているでしょうし、トプコンは元々セイコーの一部門だったことなどから正確な情報が入手しやすいのかもしれません。ヘリアはトリプレットの内、2枚を貼り合せにしたシンプルながら重量級の構成ですので、濃厚で骨太な表現が楽しめそうです。本レンズは新しいレンズですので、古いレンズが多い本コラム欄では珍しいですが、お借りすることができたのでみていただけることになりました。撮影場所は大阪・梅田と京都・河原町付近です。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 大阪駅
 この日は夜、大阪駅に着いたのですでに暗くなっていますが、周辺の梅田界隈を撮影してみたいと思います。このJR大阪駅から阪急梅田駅までの一帯は上品ですが、そこから少し離れると独特の大阪風の雰囲気がありますので、その辺を撮ってみます。まず大阪駅を出たところで振り返って撮影します。左の方に黄色い丸の表示があって、その左に光源があります。これは出口を照らす非常に強い光で、撮影場所からはほぼ真っ正面の光だったので、古いレンズであればこんな風には写らなかった筈です。少なくとも肉眼ではこのようにはっきり見ることができません。新しいレンズはコーティングが発展していますので、たいていの状況で安心して撮影できます。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 曽根崎お初天神通り
 梅田の東側に「曽根崎お初天神通り」という場所があります。普通の食堂街ですが、高級なのかローカルなのかよくわからない雰囲気のところです。中央に浄瑠璃の意匠がありますが、そこはボケています。しかし左の「リズミックボクシング」の看板、さらに右の細長い看板は比較的明瞭です。f3.5でこの距離ですから、いずれも焦点内に収まっている筈です。光の量が多くなると明瞭さを失うようです。これは弱点と見なすよりは有効利用を考えるべきだろうと思います。なぜならこの特徴はトリプレットからさらにガラスを重ねた結果得られた特徴で、このふくよかな描写を獲得するために貢献しているからです。例えば、前群の貼り合わせを除けばテッサーになり、そうすると確かに優秀にはなってバランスの良い描写にはなりますが、ヘリアによって得られる丸々した表現は失うことになります。そのため使い方としては、こういう構図では少し絞って撮影するのが適切と思われ、開放ではおそらく肖像写真で使うのが好ましいと思います。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 珉珉
 天神通りの脇道の雰囲気がなかなか良い感じです。こういう奇麗な裏路地というのは日本ぐらいしかないと思います。奇麗な国自体は日本以外にもあり、例えばオーストラリアやシンガポールもそうですが、人為的に整頓され過ぎていない感じは得難いと思うのです。看板も主張はしていますが控えたところもあります。香港ネイザンロードの巨大看板攻勢も良いですが、日本の場合はコンセプトが違うと感じられます。香港は両脇に並んだ真っ赤なチャイナドレスの服務員の出迎えと銅鑼など豪勢さが特徴なので看板もそれを反映していますが、日本の場合は寛ぐことを優先している感じがあります。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 YOSHINOYA
 通り全体に祭りのような雰囲気がありますので、吉野家も周囲と同じように提灯で飾られています。「キャンペーン中」の幟はどちらかというと神戸の様式で大阪的ではありませんが、両市は阪急電車で30分ぐらいしか離れていませんので、影響があるのだろうと思います。しかしそれでも両市は全く違う都市です。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 ホッピ
 明瞭ではありながら丸々した柔らかい表現が秀逸です。開放で遠景を撮らず、こういう近いものを撮影すると温かさを表現できます。背景のボケ味も良い感じです。祭りの華やぎを撮るならテッサーよりもヘリアの方が良さそうです。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 釜めし
 焦点は「釜めし」あたりのようですが、これぐらい距離が離れたところ、光があまり強くなければ、僅かに出てくる揺らぎも美しく感じられます。前ボケの少し重たい感じのボケ味もこのレンズ構成の美点を示すものと思います。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 メールの確認
 少しぽっちゃりした表現ですから、色もこってりとした感じになり華やかで良いと思います。こういう構図は得てして色彩が荒れてしまうことが多いですが、そこはやはり現代のレンズですので全く問題ありません。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 アーケード
 明かりにこれだけの暖かみを齎すのであれば、必ず明かりが入った作画をしたくなります。穏やかな風情があります。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 和紙のランプ
 今度はちょっと違った明かりですが、もしこれをトリプレットで撮るならもう少し引き締まった感じがあるし、良い感じの収差ももっと出ますので魅力的ですが、ヘリアであればもっと落ち着きが出てきてこれも良いと思います。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 手洗い
 間接光はどうでしょうか。暗過ぎて難しかったかもしれませんが、光のふくよかな捉え方は十分に表現されていると思います。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 竹格子
 もう少し明るい間接光です。これだけ柔らかいと絞ることで調整できないかと思いますが、それは無理でした。こういう特徴のレンズと思った方が良さそうです。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 お茶
 これは赤い花に焦点を合わせるべきだったかもしれません。光が硬めなので、それほど柔らかい描写にはなっていません。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 包丁
 包丁はとても硬い素材ですが、艶めかしく写ることでむしろその鋭さを際立たせています。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 暖簾
 このレンズはフードが付属しています。デジタルは横からの光りに弱いのでフードは必須です。適切なフードがデフォルトで付属されているのはとても良いと思います。このレンズの場合は、そのフードを回すと絞りを調整できます。うっかり絞ったまま撮影してしまい、ブレてしまいました。それでもレンズ構成の特徴が変わることはなさそうです。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 玄関
 これも硬い光ですので、それほど柔らかくは写っていません。しかし一般的な写真より絵画的には見えます。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 町家
 京都の町家を撮影していますが、焦点をかなり前に持ってきていることと光量が豊富なので、背景もそれほどボケず、十分な被写界深度があるような印象になっています。焦点が近ければ開放でも使えますが、遠景は難しいようです。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 看板と信号
 それほど広くない片側2車線ぐらいの大通りで信号待ちの時に反対側を撮影したものです。「池善化粧品」は明瞭ですが、それ以外の部分はボケています。遠景と言うほどの距離ではありませんが、それでも20mはあると思いますので、もうこれぐらい離れると開放では難しいようです。

コシナ Cosina フォクトレンダー Voigtlander ヘリア Heliar 50mm f3.5 東華菜館
  四条河原町と鴨川沿いの一等地に建っているのはずっと以前から中華料理店です。鴨川を挟んで向かい側は南座という立地です。京都の一等地に中華料理というのは何となく不思議な感じがします。北京料理とありますが、建築デザインはウィグル風です。北京はウィグル人が多いので北京にこのような店があるのに不思議はありませんが、それが何だか混じってしまって、それが外国で一花咲かせるとこうなってしまったのかもしれません。一度機会があったら入ってみたいものです。

 このコシナ製フォクトレンダー ヘリア 50mm f3.5ですが、色彩感とか描写がやはりトプコンのもののような気がします。復刻好きの小店の見方では、世間の評価に関係なくf2.8で決めるべきだったように思います。現代の基準では容認できないのはわかりますが、優秀なレンズはすでに幾らでもあるわけで、そういうレンズが欲しい顧客には買わないように言えば良いだけの話です。コシナは長年経営に成功している企業ですので、私あたりが方針に口を出すのはおかしいのはわかっています。しかし現代の検査機器である一定の範囲を超えると世に出す自信を失うのは「故きを温ねる」姿勢が欠如しているのではないかと思います。収差が多いレンズを作るのは根拠が要りますので十分な考証が不可欠だからです。それでコシナは私が無一居のレンズ製造のオファーを出した時にすぐに拒否したのでしょうか。無一居のレンズは、彼らの検査機器では合格しませんからね。とはいえ、コシナが様々なレンズの復刻にも目を向けているのは現代の企業では珍しく、しかも器用に対応できるのはありがたいことです。

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